生前対策コンサルティング事例(第3回)|農地を持つ方の安心設計

2025年09月05日

相続や生前贈与において「農地」が絡むと、一般の不動産とは異なる独特の課題が生じます。農地法の許可・届出が必要になるほか、相続登記義務化の流れも加わり、適切な準備をしないと相続人に大きな負担を残してしまうことがあります。今回は「農地を所有する方」をペルソナ(サービスや商品を利用する典型的なユーザー像を、架空の人物として具体的に設定したものです。 )に設定し、司法書士としてのコンサルティング事例をストーリー仕立てでご紹介します。

目次

1.相談者のプロフィールと悩み

2.課題の整理:農地ならではのリスク

3.生前対策の選択肢

 (1)遺言書の活用

 (2)生前贈与と農地法の手続き

 (3)農地付き不動産の売却・転用

 (4)信託を利用した農地管理

4.専門家によるコンサルティングの流れ

5.ケーススタディ:最適解の提案

6.まとめ

7.よくある質問(FAQ)


1. 相談者のプロフィールと悩み

 相談者は高松市在住のBさん、70代男性。長年、先祖から引き継いだ農地を所有していますが、実際には農業をやめて久しく、現在は耕作放棄地に近い状態です。子どもは2人いますが、どちらも農業を継ぐ意思はなく、相続の際に農地が負担になるのではと不安を抱いて相談に来られました。

 Bさんの悩みは大きく次の3点です。

  1. 相続人が農地を持ち続けることが負担にならないか。
  2. 農地を売却や転用したいが、どのような手続きが必要か。
  3. 相続登記の義務化に伴い、子どもに迷惑をかけないようにしたい。

2. 課題の整理:農地ならではのリスク

 農地には通常の不動産とは異なる規制がかかります。

  • 農地を売却や贈与する際には、農地法3条・4条・5条に基づく許可が必要。
  • 耕作していない農地は荒廃が進み、固定資産税などの負担だけが残る。
  • 相続登記義務化により、相続開始を知った日から3年以内に登記を行わないと10万円以下の過料の可能性がある。

 これらのリスクを放置すると、相続人にとって大きな負担となり、結果的に放置される「負動産」になる恐れがあります。実際に、アイリスでも数多くの農地相続の案件に携わってきました。早めに、自身の現状分析もかねて専門家に相談し、生前対策の方向性を定めておくのもいいかもしれません。無策では、後に大きな負担を残すことになるかもしれません。

3. 生前対策の選択肢

(1) 遺言書の活用

 農地を誰に相続させるかを明確に指定しておくことは不可欠です。遺言がない場合、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があり、農地の扱いを巡ってトラブルになるケースもあります。公正証書遺言で農地の行方を明示することは大きな効果があります。

(2) 生前贈与と農地法の手続き

 農地を子どもや第三者に生前贈与する場合には、農地法の許可が必要です。農業委員会への申請が通ればスムーズに名義変更ができますが、実際には「受け取る側が農業をする意思・能力を有するか」が審査のポイントになります。子どもが農業をしない場合には贈与が認められないケースも多いため、慎重な検討が必要です。

(3) 農地付き不動産の売却・転用

 市街化区域内の農地であれば、農地転用の手続きを経て宅地として売却できる場合があります。一方、市街化調整区域内の農地は原則として転用が難しいため、自治体の方針や地域計画を確認することが重要です。

(4) 信託を利用した農地管理

 最近では、信託を活用して農地を管理する方法も注目されています。信頼できる人に農地を託し、売却や処分のタイミングを柔軟に決めることができます。相続後に分散してしまうリスクを避ける有効な手段です。

4. 専門家によるコンサルティングの流れ

 司法書士としては、Bさんの相談に対して次のように進めました。

  1. 農地の所在・地目・現況を確認。
  2. 市街化区域か市街化調整区域かを調査。
  3. 相続人の意向をヒアリング(農業を継ぐ意思の有無)。
  4. 遺言書や贈与契約、農地法申請の可否を検討。
  5. 相続登記義務化への備えを具体的に説明。

5. ケーススタディ:最適解の提案

 Bさんには次のような提案を行いました。

  1. 公正証書遺言の作成:農地を含む不動産の行方を明確にする。
  2. 不要な農地の売却・転用手続き:市街化区域内の一部農地を宅地に転用し、売却資金を老後資金に充当。
  3. 信託の活用:残りの農地については、子どもが相続後に柔軟に処分できるよう、信託スキームを設計。

 これにより、子どもに過大な負担をかけることなく、農地を整理しながら老後の安心も確保することができました。

6. まとめ

 農地は相続や生前対策において特に注意が必要な資産です。農地法や相続登記義務化への理解を深め、専門家と一緒に早めに対策を講じることで、家族に迷惑をかけず、自身も安心して生活できます。特に「使っていない農地」をどうするかは、早めの判断が肝心です。

7. よくある質問(FAQ)

Q: 相続した農地を放置するとどうなりますか?
 A: 固定資産税の負担が続き、荒廃農地として地域にも悪影響を及ぼします。最終的には相続人が処分に困るケースが多いため、早めの対策が必要です。

Q: 農地を売却するにはどうすればよいですか?
 A: 農地法の許可を得る必要があります。市街化区域であれば転用の可能性がありますが、市街化調整区域では制限が厳しいため、専門家の確認が不可欠です。

Q: 農地を相続したくない場合はどうすればよいですか?
 A: 相続放棄を検討することも可能ですが、その前に遺言や生前の整理で対応しておくのが望ましいです。

(無料相談会のご案内)

 農地を含む不動産の生前対策は、一般的な相続対策以上に複雑です。当事務所では、農地法の手続きや相続登記義務化への対応も含めて、最適なプランをご提案いたします。農地をお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。

アイリス国際司法書士・行政書士事務所

アイリスあんしん終活相談

相続や生前贈与において「農地」が絡むと、一般の不動産とは異なる独特の課題が生じます。農地法の許可・届出が必要になるほか、相続登記義務化の流れも加わり、適切な準備をしないと相続人に大きな負担を残してしまうことがあります。今回は「農地を所有する方」をペルソナ(サービスや商品を利用する典型的なユーザー像を、架空の人物として具体的に設定したものです。 )に設定し、司法書士としてのコンサルティング事例をストーリー仕立てでご紹介します。

高齢化が進むなか、「独身で子どももいない場合、万一のときに誰が自分のことを見てくれるのか」「財産はどうなってしまうのか」といった不安を抱える方は少なくありません。相続人がいない、あるいは兄弟姉妹や甥姪が遠方に住んでいるなど、頼れる身内が限られるケースでは、生前の準備が欠かせません。今回は、独身で高齢の方をペルソナに設定し、司法書士として行える具体的な生前対策コンサルティングの流れをご紹介します。

生前対策は「自分にはまだ早い」「特別な資産家だけの話」と思われがちです。しかし、実際には家庭の事情によって必要性は大きく変わります。本シリーズでは、司法書士・行政書士がペルソナ(サービスや商品を利用する典型的なユーザー像を、架空の人物として具体的に設定したものです。 )を設定し、それぞれの状況に合った生前対策を解説します。第1回は「子どもがいない夫婦」。一見シンプルに見える家庭事情ですが、実は相続の場面では大きなトラブルにつながる可能性があります。

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